2020.5.29
味噌ラボ

90年前の先駆者による味噌醸造技術書 (その2)

二 味噌酵母培養法
 酵母を簡単に培養するには第十八図の如く通常の樽の鏡に経1寸位の二個の孔を穿ち内部を熱湯をもって数回洗浄殺菌し孔に綿栓を施す。次に米麹一貫目に水九升位の割合で通常より少し濃厚の甘酒を造り一旦沸騰せしめたものを直ちに樽に注入し再び綿栓を施す。綿栓はその都度表面を火炎で殺菌するのである。右のごとくして30度内外に冷えた時に別に試験管に培養した酵母二三本分をこの中に注入し、温所に置いて毎日1回位震揺するのである。十分酵母が繁殖したら甘酒と一緒にそのまま醪に添加すればよろしい。添加分量は必ずしも定まっておらぬが通常十六石仕舞一本に対し米麹七八升位を使用すればよろしいのである。
 以上は最も簡単の方法であるが、今少し丁寧にかつ乳状酵母のみを得るには第十九図に示すが如く普通の酒樽に(イ)の如き綿濾管を有する細長き管を挿入し、又(ロ)の如き綿栓を施し、下部には(ハ)(ニ)の如き位置に呑口二個を挿入するのである。而して酵母を培養するには前述の如く樽の内外を熱湯を以て十分に洗浄殺菌し、然る後沸騰せしめた甘酒を(ロ)の管から注入する。次いで綿栓を施して放冷せしめ内部の温度が30度内外に下降した所で(ロ)から酵母を移植し30度内外の温室に培養するのである。発酵を始むれば最初は1日1回位づつ(イ)の綿濾管を通して空気を挿入し発酵盛んになれば1日二三回づつ空気を挿入しなれけばならぬ。斯くの如くして四五日の中に発酵も終わり酵母は器低に沈降するから(ハ)の呑口を開いて上部の清澄液を取り棄て更に(ニ)の呑口を開いて白色乳状の酵母を得ることが出来る。而して一斗五升内外の甘酒から一升五合内外の酵母を得ることが出来る。一六石仕舞一本の添加量としては此の乳状酵母培養液三升内外が好適である。
 また培養中甘酒の腐敗等を防ぐために甘酒に予め五%内外の食塩を添加すれば最も安全である。

国立国会図書館 近代デジタルライブラリー 蔵書「最新醤油味噌醸造法」栂野明二郎 著 醸造評論社 大正15年刊(1926年)から引用

 当時、既に味噌中の酵母の利点を的確に捉え、酒樽の様な身近なものを用いて添加利用法を確立し、現在の酵母培養法と基礎的に同様な技術であることは脅威的です。

第十八図
第十九図